男性の排尿の悩み
男性の排尿の悩み
男性特有の泌尿器疾患として、陰嚢、睾丸、陰茎、前立腺などの男性生殖器の病気があります。男性は加齢とともに前立腺肥大の影響により尿の勢いが悪くなることがあります。
また、男性特有の病気には、慢性前立腺炎、男性更年期、勃起不全、前立腺がん、などが挙げられます。
こんな症状はありませんか?
前立腺は膀胱の出口で尿道を取り囲む臓器で、精液の一部を産生します。前立腺が肥大すると尿道を圧迫して、尿の通過障害をきたし、排尿症状を引き起こすとともに、頻尿、夜間頻尿、残尿感などの蓄尿症状や、排尿後症状も起こします。前立腺肥大症は加齢とともに有病率(ゆうびょうりつ)が増加し、70歳代では10人に1人以上が前立腺肥大症と診断されます。一般的な成人男性の前立腺は、クルミぐらいの大きさと例えられますが、肥大が進行するとリンゴや卵ぐらいの大きさにもなります。肥大が進行すると、夜中に何度もトイレにいったり(夜間頻尿)、排尿に時間がかかったり(排尿困難)、尿の勢いが細くなります。さらに進行すると尿が自力で出なくなります(尿閉)このような場合には尿道にゴム製の管を挿入し、排尿させます。診断には症状から病気を疑う国際的評価方法や、検査として直腸診、超音波検査やMRI検査などの画像検査、前立腺がんの腫瘍マーカー検査(採血検査)、残尿測定、尿流量測定を行います。治療は薬物療法が第一選択ですが、効果が不十分な症例では手術療法などを検討します。
尿道炎は尿道の粘膜に細菌などが感染し傷つくことで起こります。
原因菌はクラミジアや淋菌などによることが多く、排尿時に焼けつくような痛みやかゆみ、不快感、頻尿、残尿感などがあります。尿道から黄色や白色の膿をみとめることもあります。頻尿などの症状が現れることもあります。クラミジア尿道炎に感染しても20%前後は自覚症状がありません。男性の場合、尿道炎をそのまま放置すると精巣上体炎(副睾丸炎)前立腺炎に進行することもあります。検尿や尿PCR検査で性病に感染しているか判定します。結果判定までは約3日間かかります。治療は抗生剤の内服や点滴によって行います。
急性前立腺炎は前立腺に大腸菌などの細菌が尿道から侵入し、前立腺に感染することで発熱、排尿困難、排尿痛、残尿感、頻尿をみとめます。
急激に悪化した場合、敗血症などを併発する危険性があるため抗生剤投与による早期治療が重要です。
慢性前立腺炎は会陰部、大腿部、鼠径部の不快感など骨盤周囲に違和感、痛みを感じる疾患です。働き盛りの20~40代に多いのが特徴で、原因は不明なことが多く、骨盤の血流障害、長時間の座位姿勢(デスクワーク、自転車・バイクの運転など)、精神的ストレス、疲労、喫煙、飲酒、冷え症などがかんがえられております。
治療方法は投薬治療(炎症や痛みといった症状を緩和させます)と生活習慣を見直すことで症状の悪化を防ぐ治療が中心となります。改善してからも再燃や再発を繰り返すことが多く上手に付き合っていくことが重要です。
前立腺がんは現在日本で年間に発見される男性のがんの1位になりました。進行するまで症状が無い場合が多く、健康診断がきっかけで見つかることが多いです。PSA(前立腺特異抗原)という腫瘍マーカーを採血測定するようになってからは、早期診断治療される方がほとんどです。
進行がゆっくりなことが多いがんのため早期発見、治療を行えば死亡率は非常に低いとされています。50歳を超えたら年に1度はPSA検診をお勧めします。
尿路に結石ができる疾患で、結石のある部位によって腎臓結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石に分けられます。20人に1人が一生に一度は罹患し、男性が女性の約3倍多いとされています。
結石の大きさや位置によっては激痛が起こり、吐き気、嘔吐を伴うこともあります。尿検査、超音波検査、レントゲン検査、CT検査などで診断を行います。10ミリ以下の結石であれば、投薬治療により自然に排石を待つ保存療法が基本になります。10ミリ以上の結石や、小さくても自然排石が難しいと考えられる場合には、体外衝撃波結石破砕手術(ESWL)や経尿道的尿管結石破砕術(TUL入院、麻酔して内視鏡下でレーザーを用い結石を破砕します)などが行われます。
膀胱の収縮活動がコントロールを失い、膀胱に尿が十分にたまっていないのに膀胱が勝手に収縮してしまう疾患です。強い尿意が起こり(尿意切迫感)、我慢することができず、さらに症状が悪化すると切迫性尿失禁がおこります。日本では1000万人以上の男女が罹患するといわれています。加齢、前立腺肥大症、脳梗塞、ストレスなど原因は様々です。
問診や腹部エコー検査、血液検査、尿検査を行います。投薬と共に飲水制限や我慢訓練などの生活習慣の見直しも行います。
精液に血が混じる状態です。前立腺の周囲は血流が豊富なため、力んだり、過度な射精などで出血することがあります。自然と改善することが多いですが、精液が茶色っぽくなったり再度出血を繰り返すこともあります。若年者では問題ないことがおおいですが、50歳以降で出血が続く場合は前立腺がんの可能性もあるため注意が必要です。画像検査(エコーやMRI、CT検査)腫瘍マーカー(PSA)を測定することでがんの検索も行います。治療としては、多くは保存的に改善することが多いですが、炎症や感染を伴う場合は抗生物質、止血剤などを投与します。
精巣の腫大や精巣の痛みを感じることが時々あると思います。その様な場合は以下のような疾患を想定します。
精巣上体に細菌が感染することにより精巣が腫れることがあります。痛みと発熱を伴うことが多く、抗生剤内服によって治療を行います。
痛みを伴わない睾丸の腫大で多いのが陰嚢水腫です。これは陰嚢内に水が溜まる病気です。小児の一部を除いて、多くの場合原因不明です。基本的には悪性の病気ではありません。超音波検査によって簡単に診断がつきます。根治するためには1週間程度の入院による手術が必要ですが、注射での穿刺によって内溶液を定期的に吸引する治療法もあります。
20~30歳台に多く、通常痛みを伴いません。停留精巣や、性分化異常などが発生に関連していると考えられていますが、原因は不明です。悪性のことが多く、放置すると転移し死に至ります。AFP HCG LDHなどの血液検査や超音波検査によって診断します。腫瘍が強く疑われた場合は、精巣を摘除し、病理学的に組織型を判定します。さらに、全身の画像検査によって、転移の検索を行います。組織型にもよりますが、一般的には転移が見つかれば化学療法(抗がん剤治療)や放射線療法を行います。転移があっても、適切な治療を受ければ多くは完治し、予後が良いがんとされております。
20歳までで注意が必要な睾丸の痛みを伴う精巣の腫大は、感染症(睾丸炎や副睾丸炎)や精索(精巣への血管や精管の束)の捻転(ねんてん・精巣捻転ともいう)を疑います。感染症では投薬による治療を、精索の捻転では徒手整復術あるいは睾丸の摘除術が行われます。
なかでも、精索捻転症では、発症後6-10時間のgolden time(回復可能な時間)を過ぎると、整復(手術あるいは用手的に)されても睾丸そのものが壊死していることが多く、捻転が疑われれば早期の手術が必要とされます。同様の症状をきたす疾患として精巣垂捻転があります。
精巣垂とはミュラー管の退化したもので、(女性は卵管、子宮、膣の一部などの内生殖器に分化して行きますが、 男性の場合は、ミュラー管抑制因子が分泌されて、ミュラー管は退化して行き、最終的には痕跡のみ残します。)男性にとっては必要のない臓器です。これがねじれて血流障害を起こしたものが精巣垂捻転です。精巣捻転と同様な痛みをともなうため精巣捻転を疑い手術し実は垂捻転だったということもあります。
男性不妊症の30%前後に認めるといわれています。精巣(せいそう)静脈の逆流によって陰嚢(いんのう)内の静脈が腫れ上がり、精巣に負荷がかかり、陰嚢痛、精液の発育不良をみとめることがあります。高度の場合は立位で容易にわかりますが、超音波で血液の逆流がないか確認します。解剖学的理由によりやせ型の患者さんや左の睾丸側(左精巣静脈は左腎静脈に流入するため)に発生することがおおいです。投薬によって改善することがおおいですが、痛みが強い場合や不妊症の治療の一環と手術治療を検討することもあります。
亀頭が赤い・恥垢が増えた・かすが出る
包皮や亀頭に炎症を起こす疾患です。
主にブドウ球菌などの表在菌の感染によって生じることが多いです。糖尿病のコントロールが悪化している場合、高齢者、日和見感染者、糖尿病のSGLT2阻害薬内服中の患者さんは悪化する傾向があります。主な症状は、ペニスの先が赤く腫れる、膿や恥垢が増えたなどで、触れると強い痛みを生じます。ただし、尿道の炎症はないため、排尿時の痛みを起こすことはほとんどありません。
治療はペニスの状態を確認して診断します。細菌感染によって生じているため抗生物質による治療が有効です。抗生物質軟膏の塗布や内服によって数日で状態が改善します。細菌感染のことが多いのですがカンジタなどによる真菌感染のこともあり治療の経過によっては皮膚培養検査をおこなうこともあります。汚れをとりたいといって一生懸命洗う患者さんもおりますが、この行為は逆に皮膚を荒らすことにもなりますので優しく洗うようにしましょう。
夜間、排尿のために1回以上起きなければならない症状を夜間頻尿といいます。加齢とともにその頻度は高くなります。夜間排尿の回数が一晩に2回以上ある高齢者は、1回以下の高齢者に比べて、死亡率が1.98倍になるという報告や、「夜間頻尿と死亡率の関係」に関する複数の研究結果を統合したところ、夜間排尿の回数が一晩に2回以上あると死亡率が29%増加し、3回以上になると46%増加するという報告もあります。
夜間頻尿の原因は、大きく分けて①多尿・夜間の尿量増加、②膀胱容量の減少、③睡眠障害の3つに大きく分けられます。
尿量が多いため夜間頻尿が引き起こされるタイプです。ときに心不全、腎不全など内科疾患が原因になっていることもあり、その場合はその疾患に対する治療によって頻尿が改善することもあります。
1日24時間の尿量が多くなるために、夜間トイレに何度も起きるものです。
熱中症など対策のため飲水量を増加している患者さんなどが当てはまります。1日の尿量が40ml/kg(体重)を超える場合(例えば60kgの体重の人は40ml/kg x 60kg =2,400ml)がこれに当たります。飲水量の制限のみで改善する場合も多いです。午前中に多く飲水し夕食以降は控えるようにしましょう。
夜間のみ尿量が多くなり、夜間トイレに何度も起きるタイプです。一つの目安として、65歳以上の方では、24時間の一日尿量に対する夜間尿量の割合が33%を超える場合は、夜間多尿タイプと考えられます。若年者は20%以上を超える場合は夜間多尿タイプと定義されます。
寝る前の水分の過剰摂取、抗利尿ホルモンの減少、高血圧や心不全、腎機能障害などの内科の疾患、下肢の筋力低下、下肢のむくみなど様々な原因が考えられております。下肢の運動や弾性ストッキングの使用により改善することも多いです。改善が認められない場合は夜間の尿量を抑えるホルモンの薬(デスモプレシン)を処方し症状の改善を図ります。
膀胱容量の減少は、少量の尿しか膀胱に貯められなくなるもので、膀胱が過敏になるために起こります。一般的には、昼にも頻尿になることが多いです。
膀胱に尿が少量しか溜まっていないのにも関わらず尿意を感じて、膀胱が勝手に収縮し、頻尿、失禁してしまう状態で、トイレに急いで駆け込む症状(尿意切迫感)をみとめます。脳卒中、パーキンソン病などの脳や脊髄(せきずい)の疾患が原因になることもあります。治療は過活動膀胱症状をみとめる場合では、抗コリン薬、β3作動薬を投与します。
男性特有の疾患で、前立腺が大きくなることで排尿がしにくくなり、結果として膀胱に負荷がかかり膀胱が過敏になることがあります。前立腺肥大症を認める場合は、α1遮断薬、PDE5阻害薬、5α還元酵素阻害薬を症状に合わせて併用服用します。
間質性膀胱炎や骨盤臓器脱などで夜間頻尿になることがあります。
眠りが浅くてすぐ目が覚めてしまうために、目が覚めるごとに気になってトイレに行くタイプです。高齢になるにつれて睡眠が浅くなることが多いため、夜間少しの尿意で起きてしまうタイプです。日中に寝てしまうと夜間寝られなくなるため昼寝は30-60分にとどめるようにしましょう。生活指導を行っても改善しない場合は漢方薬や睡眠薬を使用し深い睡眠を促します。